photo:Shin Murakami

陸前高田の住居

復興とともにあゆむ家
建て主は大学の研究室の同期で、もともと東京で都市計画の設計事務所に勤めていた。東日本大震災を機に2012 年4 ⽉から陸前高田市役所へ転職し、都市計画課でまさにゼロからのまちづくり・景観デザインに取組んできている。彼は宮崎県出身だが、陸前高田で結婚をし子供も生まれ、着実に地域に根を下ろすなかで家を建てることを決めます。「海もまちも望める良い敷地を見つけた」という連絡を2018 年11 ⽉にもらい、2019 年2 ⽉に初めて敷地を見に行った。

海を望むシェルター
敷地は高台にあり、中心市街地、復興祈念公園、広田湾を見晴らすことのできる絶好の場所だった。陸前高田は太平洋沿岸に位置し、東北のなかでは降雪が少なく比較的温暖な土地。とは言え、冬の高台の風の強さ・寒さを実感してみると、環境から人を守るシェルターが基本だと考えた。そのうえで、三陸の雄大な風景、特に海とのつながりを実感できることが重要だ。

パッシブデザイン+地場材
建て主家族から示された条件は、家事のしやすさはもちろんのこと、陸前高田における住宅の今後の手本になること、具体的にはエコロジカルで地場材を積極利用することだった。
まずは、エネルギー使用量を抑えられるよう、シンプルな形として外皮の断熱・気密性能を確保することにした。海の方角が南になるので、そちらにできる限りの開口を設けようとすると自然に東西に長い建物となる。冬季の日射取得を優先して、軒をあまり深くしていない。夏季の日射遮蔽は軒先にすだれを掛けるなどして対応する必要がある。
家具と建具をのぞき、躯体から仕上げまでほぼ岩手県産材、特に気仙杉(陸前高田市・大船渡市・住田町産)を用いている。構造は横架材が県産のカラマツ集成材で柱が杉。床材は杉の30mm厚、外装も杉の下見板張り及び羽目板竪張りである。

大きなサンルーム
建物の南西部分にポリカ波板の外壁と土間床のサンルームを設けた。この部分は断熱が無いので温度としては外部でも、風を避けられるだけで体感温度が随分変わる。防虫パッキンに直射日光が当たらないようにアルミのフラットバーを押縁として被せた。
建物全体からすると大きすぎる印象だが、ストレスなく、できれば楽しみながら、洗濯のように日々の暮らしに不可欠なことができることは重要だと考えている。ひなたぼっこをしたり、雨の日の子供の遊び場となったり、建具を開けて庭でのバーベキューに使ったり、暮らしに変化を与える半外部のリビングでもある。半透明の大きなサンルームが、この家の外観に個性を与えている。

暮らしを支える器
取り立てて飾り気のない切妻屋根の住居は、めぐまれた敷地の広さを今はやや持て余しているように見えるが、建て主自ら庭木を山から取って来たり、家族で野菜を育てたり、時間をかけてこの場所に根を張っていくはずだ。
震災から10 年。変わっていくまちと変わらない風景がこの住居のまさに目の前に広がっている。自らの仕事を見つめる建て主と、家族の日々の暮らしを支える器であってほしいと願う。

■性能・設備
Ua 値:0.27
C 値:0.36
太陽光発電:5.32kW
断熱材:
 屋根 セルローズファイバー300mm
 外壁 セルローズファイバー120mm+高性能グラスウール16k 105mm
 基礎立上り パフォームガード50mm+50mm
 基礎下 パフォームガード 100mm
開口部:樹脂サッシ Arガス入りLow-E ペアガラス
換気:ダクトレス熱交換換気
暖房:床下AC

■認定等
ZEH
BELS
長期優良住宅(耐震等級3)
バリアフリー基準
地域材(気仙材)+岩手県産材

所在地岩手県陸前高田市
用途住宅
構造・規模木造平屋・132.49㎡
竣工2021年2月
協働構造設計スタジオシエスタ
 千葉 俊太
施工株式会社 長谷川建設
 上野 修平
 佐々木 誠輝