photo:YASUO HAGIWARA

今泉自轉車店(魚町の店舗と住居)

まちの自転車屋さん
建て主は60代のご夫婦。仕事に実直なご主人と思い切りの良い奥さん、お二人とも明るく気さくな方である。私が高校へ通った自転車は、20年以上前にこちらで親に買ってもらった。地域に根付いた昔ながらの商店である。ご主人が生まれる前からの家業であった自転車屋を継いで、二人三脚で営まれてきた。
元の建物は数回の増築を重ねてきて、店舗部分と住宅部分が入り組んだ複雑な間取りになっており、当然老朽化もしていた。3人のお子さんもそれぞれの家庭をもつようになり、ご夫婦と犬1匹で住むには広すぎるため、思い切って建て替えることとなった。
敷地は豊橋の中心部、魚町通りにある。かつてはアーケードのかかる商店街だったが、8年前に覆いは撤去された。間口7.3m、奥行き23mほどの細長い形状の土地。北側道路は歩道付きで15mほどの幅員があり、向かいは制服屋さんと保険屋さん。東隣は履物屋さんで西は空き地を挟んで金物屋さん。南も民家・商店がびっちり建っていたが、こちらの建設中に解体され売地となった部分もある。

防火地域の木造店舗/住宅
ご夫婦から与えられた条件はそれぞれ1つずつ。ご主人からはとにかく店舗スペースを大きくとること、奥さんからは店舗の中を通らずに住居スペースへ行けること、だった。
防火地域であるので、床面積が100m2を超えると耐火構造とする必要があり、S造かRC造となるとコストが厳しい。ご夫婦の年齢と跡継ぎが特にいないということも考え、思い切って木造で切妻の平屋、ちょうど100m2のものをご提案した。だが、100m2ではどうしたって置ける自転車の量も限られるし、住宅部分も最小限になる。あえなく却下されたが、屋根の形は気に入ってもらえた。
最終的に、店舗棟と住居棟の分棟とし、それぞれ100m2以下の木造・準耐火構造を選択した。

街なかに浮かぶ木の屋根
細長い敷地で周囲が建て込んでいるので、元の建物はどうしても薄暗い印象があった。新しい建物では自然光で明るい空間とするため、北側道路に対して大きなガラス面をとることを考えた。S造とRC造ばかりの街なかに木造の屋根を浮かべることができれば、商店街の新たなランドマークになると思った。三角屋根の妻壁もガラスとし、単純な切妻の架構の連続が通りからも見えるようにした。さらなる明るさの獲得と通気を期待し、棟部は長いトップライトとしている。
これらを実現するために、店舗棟は外壁耐火型のロ-1準耐火構造としている。基礎の作り方、耐火構造の外壁とあらわしの梁との接合部など、かなり特殊な納まりである。なお、住居棟はイ準耐火構造である。

70年以上前の看板を再用
看板はご主人が生まれる以前から使われていたもので目の詰んだ杉材。解体時に取り外して保管していた。長年アーケードの下にあったため比較的風雨による損傷が小さかったが、一部、不良部は切除して接ぎ木をしてもらい、全体的に修理・含侵強化のうえ再塗装し、新しい建物に再用している。

工事中ははす向かいのビルを借りられて仮店舗で営業をされていた。設計期間も工事期間も、定休日である水曜以外にお店へ行けば打合せができるため、足繁く通わせて頂いた。と言っても、こちらからご提案したことはほとんど快く了解頂き、後はお二人と楽しくおしゃべりをしていた。
工事を担当頂いた萩森建設さんには粘り強く打合せにお付き合い頂き、難解で面倒な施工プロセスを見事に実現頂いた。なにより、職人さんの腕が大変すばらしかった。建て主にも施工者にも恵まれた、なかなか得難い経験である。

■性能・設備(住居棟)
Ua 値:0.69以下
断熱材:
 屋根 高性能グラスウール断熱材 16K相当 210mm
 外壁 高性能グラスウール断熱材 16K相当 90mm
 床 グラスウール断熱材 高性能品 HG24-36 80mm
開口部:アルミ樹脂複合サッシ Arガス入りLow-E ペアガラス
換気:第三種換気
暖房:壁掛けAC

■認定等
人にやさしい街づくりの推進に関する条例 適合(店舗棟)
耐震等級3(住居棟)
断熱等性能等級4(住居棟)
一次エネルギー消費量等級4(住居棟)

所在地愛知県豊橋市
用途店舗併存住宅
構造・規模木造2階・168.03㎡
竣工2022年9月
協働構造設計スタジオシエスタ
 千葉 俊太
株式会社デザイン・フォー・ヘリテージ
施工有限会社 萩森建設
 金子 瑞人